ショーン・タン「アライバル」を観て

2013112911/25(月)のブログでも紹介したが、安曇野絵本館で題記の本を買った。絵本とは言え、大人向けで文字もない。全128頁にセピアカラーの絵が所狭しと並び、20世紀初頭のアメリカのような風景をバックに人々の多様な表情を中心とした5章仕立ての1つの物語がサイレント・トーキーのように描かれている。一人の男が家族を残して新天地に活路を求めて異国を彷徨い、そこで出会った人々から温かい施しを受けながら、新たな生活基盤を作って家族を呼び寄せるストーリだ。新天地で温かく出迎えた人々にも皆、苦しい過去があり、アウシュビッツやタイタニックの下層貧民を彷彿させるような暗い画で綴られ、焦燥や恐れの中からもけなげに立ち上がった人間模様が描かれている。そしてラストシーンは、呼び寄せた娘も新天地に根をおろして次の彷徨者を温かく迎える姿が描かれ、移住し定住する人間ドラマが世代を越えてリピートしていくような暗示を与え最後を綴じている。
最も印象に残った絵は、冒頭に男の旅立ちを見送った後、家路に着く母娘の寂しげな後ろ姿とそれを取り巻く不穏な風景が何とも切なく、この先どうなるだろうかと想いを馳せ、即、この絵本の購入を決めた。もし、この絵本を本屋或は図書館で見かけたら、ぜひ目を通すことをお勧めする。

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