昨年末の読売新聞紙面で、2014年の総決算「今年の3冊」を20名からなる読書委員が「力作」「傑作」「心地よい読後感」の範疇で本の紹介をした記事があった。各界の識者が選んだ総計60冊で重複したのは唯一、この題記の本だった。それでも二人が選んだだけで、各人の思い描く推薦本のバラけることに驚いた。と言ったいきさつで、いつもの図書館でこの本を検索し、運良く借りることができた。読んでみてナルホド、「力作」で「心地よい読後感」だった。さすがは当世を代表する脚本家、限りなく柔軟な思考の中に力強さが光り輝く文体だ。作家にありがちな「アクの強さ」や「非常識観」は微塵もなく、常識人と言うよりも思いやりや心遣いは並外れている。山田太一の過去を振り返ったこのエッセイ集は心に沁みる傑作で、今後もくり返し読んでもよい作品だ。
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