掲題の本は今年の話題作の一つで図書館での予約も殺到した。夏場の暑い時期に予約を入れ、手にするのに何と3ヶ月ほどかかった。開いた本は行間も大きくスカスカの文字で全217頁を読むのにほぼ1日の分量だった。でも面白く、あっという間に読み終えた。本書は田中角栄を1人称にして書き綴った伝記小説で、まるでご本人の手記のような作風だ。いろいろと角栄にまつわる本を参考にして書かれていておよそ真実が描かれた感じがした。ここへきて、田中角栄の評価が見直され歴史的にもまたとない逸材であることが世評ともなっているが、まさにこの本を通してもその天才ぶりが見事に描かれている。反田中の急先鋒で大変不仲であった筆者、石原がこのような肯定的な書きっぷりをしたのにとても驚いた。歴史に残る人物とは後世の人が如何に評価するかで決まると思っているが、当時の政界で激しくやりとりした石原自らが後世の人の如く田中を評価するのを目の当たりにして、長い時間の経過につくづく思いを馳せられた。私としては今まで金権政治の悪しき代表者の筆頭に思っていた角栄だが、実は私欲からではなく、人・故郷・祖国を思いやり、より良くするために邁進し先見の明で次々と成果を上げた功労者であることを再認識した。ロッキード事件は最高裁でも田中の有罪となったが、本書では無実であったことを論拠立てて書かれていて、真実はそうであったかと自分でも翻意してしまうほど悩ましかった。一読の価値は十分にある本だった。
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