掲題の小説は知り合いの方が20数年前に自費出版されたもので、縁あって読む機会を得た。ジャンルは推理小説の類だが、ミステリの謎解きや終局のどんでん返しなど読み進むに従いストーリ展開するのではなく、最初から犯人を知らしめていて、ある種の文芸作品のようだ。舞台は安曇野市穂高と群馬県高崎市が中心となっていて、出てくる地名は自分のよく知る場所のオンパレードで親近感はこの上ない。殺人場所の一つが穂高の碌山美術館、犯人が住む場所が高崎市で完全犯罪を目論んで、広域の空間と電車の時刻が軽妙に絡み合うストーリだ。筆者は相当に準備し、かつ豊富な旅行経験を織り交ぜてストーリを展開し、場面切替えの文章の繋がりにも違和感はなく、玄人作家に近い文章の出来だと思う。ただ読み進む楽しさ、面白さを味わえないのが残念だ。文章はしっかり書けているのだが、この小説の主人公が見当たらないのがその一因のように思える。完全犯罪を成し遂げようとする犯人側を照準にするわけでなく、犯人を追う刑事側の奮闘に読者を引き寄せるわけでもなく、マスメディアの新聞ネタのような書きぶりに見受けられる。その分、ストーリ展開しても臨場感が湧かず、先を読みたくなる気概が薄れるのは私だけだろうか、と少し辛口の感想を書かせていただいた。
Monthly photo – 2024.11
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