東山彰良「ありきたりの痛み」を読んで

読書らしい読書から遠ざかって久しく、それでもやっと2週間ほど前にドキュメンタリー物を読んだ。その次は小説でもと思ったもののあれこれと迷い結局、エッセイものにしてみた。できれば破天荒でデカダンス風なものがあればと探したところ、図書館の新刊コーナーに掲題の本を見つけた。借りてはみたが、読書のペースは進まず、返却期限日の今日になって、ようやく読み終えた。筆者は昨年、直木賞を取った気鋭の作家で、およその素性を知るのにまあ面白い本だった。三部構成で、真ん中の章が映画コラムでやたらと長く、少々もてあました。前後の章では、この作家の日々の荒廃した生活ぶりが描かれていて、現代作家の中でクールでスマートではない範疇の生きざまを垣間見た気がした。この作家が大のテキーラ好きであることは昨年の受賞時のインタビュー記事で知ったが、この本で類似したエッセイがあったので、最後に記す。

霧深いロンドンで謎の美女がバッグに忍ばせているものといえば小さな拳銃とジンだ。オリエント急行で復讐に燃えるやさぐれ男があおるのはウォッカであってほしい。カチコミの前に交わす兄弟杯は日本酒以外にはありえない。西部劇のガンマンが不穏な酒場で注文するのはバーボンと相場が決まっている。暖炉の前で過去をふりかえる老紳士の手の上にはブランデーかスコッチがふさわしい。テキーラはどうだろう。一杯あおれば踊りだし、二杯あおれば酩酊し、三杯あおればあの世行き−−–日本でのテキーラのイメージは、さしずめそんなところだろう。....

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