池澤夏樹「双頭の船」/小川洋子「ことり」を読んで

題記2冊の本は何の脈絡もないが、文芸雑誌で話題となった本の中から興味を覚えたものの、図書館の書棚になくて貸出し申込をし、たまたま同時期に手にした書物だ。前後して読み終えたので、以下に概況する。

池澤夏樹は初めて読む作家で、タイトルの「双頭の船」は311大震災の復興をテーマにボランティア船を舞台にした物語。生死を混在させた鎮魂のシーンや、船を増殖させて復興再生を続け、最後は船を独立国家にするか住民投票にかけるなど、荒唐無稽なストーリながら読み手を引きつけて楽しませてくれた。

20130725-3

小川洋子の作品を読むのは2作目で、タイトルの「ことり」は何とも侘しく切ない老人の一生を綴った物語。主人公である老人の孤独死に始まり、ストーリの山場や活気のある場面はなく、ひたすら平々凡々と暮らした人の痕跡が「つらい」「さみしい」などの感情語句を一切排して、淡々と描かれている。全体の1/3ほどで全容らしきものが見えて、この先どう展開するのか読み進むうちに、平凡の中の非凡さが透けて見え、兄に対する愛や平凡さの中の幸福観が描かれている。「もののあわれ」的なものへの郷愁を覚え、映画化された小川洋子原作「博士の愛した数式」と相通じた感触も加わり、最後まで一気に読み終えた。

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