今月は年2回の文学賞で有名な芥川賞と直木賞の発表がある。少し前から図書館ではノミネートされた作品が掲示されていて、芥川賞候補の題記の本を借りて読んでみた。原稿枚数にして93枚、短編に属するこの小説は半日にして読めた。日常生活を淡々と綴った平易な文章だが、不思議な小説だった。岩手県の自然の美しさと釣りの醍醐味が多分に描かれ、終盤は東日本大震災の話に連なるが、一体何が書きたかったのかよくわからなかった。友人との心のふれあいがテーマなのだろうが、謎かけやほのめかしなどの心理を突くような文体ではなく、ミステリータッチの雰囲気もない、ただただみずみずしさだけが印象に残った小説だった。以前に「芥川賞の偏差値」と言う受賞にまつわる評論を読んだが、その筆者が賞を取る秘訣は「いかにもうまいという風に書いて、かつ退屈であることが重要」と力説していたことを思い出した。今回読んだこの本はなるほど然り、と思われるのでひょっとすると賞を射止めるかも知れない。
Monthly photo – 2024.11
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