この小説はテレビドラマ化されて有名になったようだが、ドラマは見ずじまいだ。初めて読んだ小川糸の文体は自然で読みやすいのだが、女性作家ならではの持って回ったくどさのようなものを感じた。もう少し、歯切れよいシンプルさが欲しい気もした。物語は鎌倉が舞台で、要所要所に地名やお店の名前が実名で出てきて懐かしさを覚えた。何よりもこの小説の特長は、それぞれのよもやま話の最後に登場する肉筆で書かれた手紙だ。文字、文体、筆記用具、用紙に至るまで、かなりマニアックな手紙で、とても面白かった。これがこの小説を有名ならしめた最大の売りに思えた。当初は単なるショートストーリを寄せ集めたものだと思ったが、実際は主人公の人生の葛藤や身内の人への心の揺らぎを描いた心温まる内容で、なかなか優れた作品だった。
Monthly photo – 2024.11
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