この小説は本年度、H29年度前期の直木賞候補作として話題になった。ノミネート後に図書館の貸し出し予約を入れたが、入手に2ヶ月ほど要した。手にした本の帯には「読むほどに濃厚な味が広がる、圧倒的長編小説」とあった。結婚詐欺で殺人容疑の女性にまつわる出版界の取材活動を描いたストーリは狭い範囲の展開で、当初はありきたりの文脈が延々と続き嫌気がさして読みあぐねた。貸出期限が近づく頃になってやっと本の帯のごとく濃厚な味が出てきて凝ったミステリー小説を読むような醍醐味が味わえた。最初に馴染めなかったのは、女流作家ならではのきめ細かな目線で仔細を掘り返すあまり道々巡りのロツボにはまった感がしたことだ。後半になってやっと面白くなるとともに、この作品が用意周到に準備され、発散した歯車が緻密に噛み合っていくことを目の当たりにした。これはどうも私自身が作風のテンポに乗り遅れ、30代半ばの若い作家のスタイルに着いて行けなかったのではないかと、ふと錆びついた我が感性を疑ってしまうようでもあった。
Monthly photo – 2024.11
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