この本は著者が藤沢周平、編集が澤田勝雄で、発刊は2011年4月となっている。藤沢周平は1997年に亡くなっていて、没後10年以上を経て藤沢周平著として出されていて奇妙だ。実際には、生前にインタビューした編者が本のタイトルに合わせて編集し、「とっておき十話」は第1章として全体の1/3ほどの分量だった。中身は作家になるに至った思い出話や作家としての信条などが語られていて、何となく耳にしたような話が並んでいた。2章は「政治と文学」で、編者がインタビューを通じて解釈した藤沢周平の政治観を語っていて、本人は意外と政治に関心を持ち批評の言葉の中にだいぶ革新的な面が伺えた。最後の第3章は「私の見た藤沢周平」で、あまり目につくところはなく通り一遍だった。藤沢周平はリタイア後、こちらに移住して本を積極的に読むきっかけを作ってくれた人物としてとても感慨深い。出会いは、2012年の終わり頃に当時の野田宰相がよく読む本の筆頭に挙げていて、首相退陣後はじっくりと読みたい旨の記事を読んだことだ。藤沢周平の作風はおよそ、武術伝の痛快活劇、伝記もののリアリティ、庶民の悲哀を描いた市井ものの3パターンがあると思うが、時の総理大臣が市井ものなどに傾注して読んでいることにとても親しみを覚えた。私自身もハマり、全集もの22巻を半年かけて読んだ記憶は生々しく覚えているが、個々の作品を思い出すとなるとその多くを忘却してしまい、嘆くとともに自分自身の老獪ぶりを痛感している。
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