飛鳥時代の歴史に興味を覚えて今年の2月に「蘇我の娘の古事記」を読んだが、その延長上で今回は天智天皇にまつわる小説を読んだ。聖徳太子以降の時代でよく似た話が出てくるが、作者が違っているせいかだいぶ雰囲気が違った。今回の小説はより史実に近い伝記物のような作風だが、よくわかっていない時代背景なので多分に創作して書かれた感がした。タイトルは「白村江(はくすきのえ)の戦い」だが、物語としてはこの戦いの場面は終盤の1/10程度のもので、実際は天智天皇(即位前の名、中大兄(なかのおおえ))と鎌子の生涯を綴っている。古代の統治のあり様は皇族を中心に殺戮に明け暮れた日々であったことは想像していたが、本書では皇后や側近の巫女が霊能力を発揮する場面が多くちょっと閉口した。雨乞い程度の占いならばともかく、将来を全て予知できる霊能力を持つ女性が政権トップの周りで君臨していた様は史実とかけ離れた感がして興醒めだった。それでも文中には実在する多くの和歌が読み込まれていて、血なまぐさい物語の中にも古代のロマンを感じた。はるか古の時代なのに朝鮮半島や中国との交易が盛んで、渡来し日本に帰化した人がかなり多く、中には鎌子のように権力の中枢に重用された人も多かったことを改めて知った。日本人は大和の地の生粋の民族と言うのはひょっとすると違うのかも知れない。
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