掲題は2017年下期の芥川賞受賞作の一つで、収録された文芸誌を通じて読んだ。独特なスタイルで書かれていて、冒頭からそのユニークさに戸惑った。一人語りで自分の半生を顧みながら過去と現在を幾度となく交錯させながら物語が進む。客観的な目で観た標準語の「私」と主観が込められた東北弁の「おら」が渾然となった語り口にこの作品の新鮮さを覚えた。「老いと孤独」がテーマと思われるが、主人公の独特な個性が描かれているにもかかわらず、現代の高齢化社会に共通した女性像に迫る感がした。「老いと孤独」「生と死」の葛藤が面々と連なり暗いイメージの中にあって、人生を肯定的に捉えたエンディングが印象に残った。新人賞のデビュー作ながら、熟年から老年の想いが込められた秀作だった。
Monthly photo – 2024.11
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