2017年度下期の直木賞受賞作を読んだ。本の帯には「国民作家・宮沢賢治を父の視点から描く、気鋭作家の意欲作」のキャッチコピーがあって、父親の目から見た賢治の一生が切々と綴られている。賢治の伝記小説ながら、本人の主観が一切なく、さりとて第三者の客観的な見方でもない、肉親の愛情に満ち満ちた描き方に新鮮さを覚えた。反面、国民的作家として天才の姿を追うところはまるでなく、生い立ちから成長に至るまで放蕩息子のように描かれていて拍子抜けの感がした。賢治自身、不遇の人生であったことは記憶しているが、後半の生き様がここまで過酷であったことをこの本を通して知った。彼の人生の全てを物語ってはいないと思うが、よく整理され親の立場から見た全体像がうまく描かれた秀作だと思う。さすが、直木賞選考委員全員が一致して推挙した作に相応しい。エンディング部分を読み進む中で頭をよぎったは、生前は無名だった彼を一躍有名にしたのは弟の尽力で、まさに天才画家ゴッホを彷彿するようだった。賢治が富裕の家に生まれ育った点が相違するが、共通するのは不遇の人生そのものが傑出した作品を生み出したに違いない。
Monthly photo – 2024.11
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