司馬遼太郎「竜馬がゆく」を読んで

この1ヶ月ほどで題記の本を読んだ。その前が「翔ぶが如く」で、これが司馬遼太郎の晩年に近い作なのに対して「竜馬がゆく」はほぼ処女作に相当する。両者とも明治維新前後の物語で時代は似通っているのに作風が様変わりしているのは作者の書いた時期がかなり相違するからだろう。と、最初は思っていたが、読んでみてどうやらそれだけではないように思う。「翔ぶが如く」は明治維新幕開けの混沌から西南戦争の破局に至る悲愴感が随所に漂うが、「竜馬がゆく」は暗殺で悲痛な最期を遂げるが、この人物の並外れたプラス志向は底抜けに明るく全体的にワクワクと心踊る思いがする。この傑出した人物は幾多の難関を超然と乗り越え、その凄さが快活さと共に網羅されていて心地よい。竜馬は今日でも話題豊富な人物として取り沙汰されていて、それなりに理解していたつもりだったが、この本を通じて知った新たなこととして、

  • 「人は皆平等な日本人」だと自覚していたのは坂本龍馬が日本の有史以来初めての人物のように思う。維新に至っても相変わらず藩閥から抜けきれず闘争に明け暮れて、国民平等の国家思想を持つ人は稀有だった。
  • 龍馬は明治憲法に連なるビジョンを持ち、その礎を作った。倒幕の志士は倒幕そのものが目的で、維新のビジョンがなかった。
  • 資本主義、株式会社の概念をすでに持っていた。
  • 富豪の家に生まれ、剣は北辰一刀流免許皆伝の凄腕で、桂小五郎も剣の達人だった。

あまりにもカッコ良い竜馬が描かれ、フィクションが多すぎると苦言を呈した歴史家もいるようだ。しかしながら、近代の自由平等の思想の先駆者で、殺戮よりも平和裏に倒幕することに燃えた志士に違いなく、圧倒的人間力をもって幕末を疾駆した奇跡的な人物であった。

安曇野の風 について

安曇野に巣くう極楽トンボ
カテゴリー: 読書 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。