題記の本は第161回直木賞(本年7月)にノミネートされたもので、ノミネート発表時に図書館に予約を入れたが前評判がよく、この11月になってやっと読むことができた。不思議な本だった。冒頭に物悲しい結末があって、時系列で語られるのではなくいろんな出来事が記憶を紡ぐがままに述べられている。タイトル「平場の月」のイメージのように、語りは平場のどこにでもある生活のだらだらとした話が続いて、霹靂とした感を抱きながらも切なく感情移入してしまうのは作者の筆力の凄さだろう。純愛小説とは違う、ガン闘病の記でもない、たわいもない日常会話に溢れていながらもこれは人生の機微を綴った純文学の小説に違いないと思いながら読み終えた。最終章は推理小説好きには説明不足で物足りなさも感じたが、しみじみと心に響く良質な本だった。
Monthly photo – 2024.8
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