筆者のフルネームはエリック・エマニュエル・シュミットで、ミドルネームを記さないとGoogle社の創設者の方を連想してしまうが、本書の作者は仏人で現代フランスを代表する劇作家のようだ。図書館の新刊コーナーで見つけ、題名と出版社が音楽之友社、そして訳者がパリに在住する現役のピアニストであるのも気になって借りてみた。どうやら筆者はアマチュア・ピアニストとしても有名で、本書は自身の半自伝的小説のようだ。若い頃にピアノの指導をしてもらったマダムとの交流が描かれているが、このマダム・ピリンスカは実在人物ではなく架空の人らしい。どうして自伝小説なのかよくわからないが、音楽に傾注し特にピアノに関わる自身の主張が随所に感じられた。ショパンが如何にピアノの果てしない世界だけを一途に追い求めていたのか、他の作曲家との違いが浮き彫りにされたことを実感した。いつしか物語に引き込まれ、音楽のみならず人生観や世界観までテーマが拡張していることに驚いた。120頁ほどの短い小説ながら充足した読後に浸れた。脱線するが、先日記した「チャルダッシュ」は無数の楽器でこなされ、私の好きなバッハの「ゴルトベルク変奏曲」やモーツァルト「トルコ行進曲」などはアンサンブルで演奏されたりもする。でも、ショパンの曲はピアノ以外で演奏されることはまずないのも本書からうなずけた。
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