題記の作家の本を読むのは4作目だ。この1ヶ月ほどで3冊読んだが、読んだその順は著者の執筆時期の逆できっかけはやはり今般の直木賞受賞だ。1年ちょっと前に読んだ1作を加えて4作とも面白い。今回の舞台は徳川11代将軍「家斉」の時代の大奥。作中には将軍に関する記述はほとんどないが、家斉は在位が50年と長く幕政は幕閣に任せて放蕩三昧の将軍だったようだ。将軍直系の血筋ではなく、先代は兄弟を含めて子宝に恵まれなかった。これに過便に応じたか、大奥を最盛化させて仕える女人は総勢千人、二千人とも言われる。儲けた子供は53人、16人の妻妾を持ったようで、将軍として在位を含めて歴代1位。子女の多くは大名家に縁組させて権勢を振るった反面、莫大なその経費で財政を逼迫させた。幕閣・松平定信らが進める財政立て直しの「寛政の改革」を無視して重鎮を罷免して放任政策をとったが、結果的に町人文化を発展させて江戸文化の絶頂期だったと言う。
本書ではそんな時代の大奥の内情を6人の奥女中が綴った短編集だ。よく連想されがちな大奥のドロどろさはなく、ユーモラスなお仕事ぶりが紹介されている。大奥は組織化されたカンパニーで多岐にわたる部署があって、それぞれ6人の主人公が奮闘する様が描かれている。作品は創作そのものだが、大奥の実態を垣間見た感がした。