乗代雄介「二十四五」を読んで

先月ノミネートされた第172回芥川賞候補のうち、雑誌に掲載された題記の中編小説を読んだ。筆者は芥川賞にノミネートされたのは今回で5回目のようで、自分としても過去ログを見ると受賞候補の3作品を読んでいた。残念ながら今まで受賞を逃してきたが、これだけ回数を重ねているのはそれだけ実力がある証だろう。今回の作品は退屈ではなく、最後まで一気読みできた。弟の結婚式前後の数日間を日記風に綴ったもので、テーマは家族、とりわけ弟との幼少からの関わりが随所に出てきた。家族愛を彷彿させ感銘を受けるような作風ではなく、平易な文章ながら相変わらず難解な小説だった。解らせないままなのにグイグイと引き込む文章の巧みさは筆者のお家芸なのかも知れない。主人公は女流作家となっているが、どうも女性ぽくなく作者本人のような男性作家の気質が随所にみられた。主人公を男性作家、弟ではなく妹の結婚式に想定したらもっとしっくりしたのではないかとも思った。あとで調べたら、以前の作品に「十七八より」と言うのがあって、本作も何かしらシリーズ物のような位置付けなのかも知れない。今まで読んだ筆者のノミネート作に比べて、本作は受賞に一番近い出来上がりではないかと思っている。受賞を期待したい。

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