アイサコフ「ピアノの歴史」を読んで

20140115図書館の新刊コーナーの片隅に題記の本がしばらく陳列されていて何度か目にする内、私を待っているような気がして借りてみた。この本は分厚くて、内容も歴史書どころか脈絡がなく読み終えるのに貸出し期間の2週間をはみ出てしまった。著者のスチュアート・アイサコフは作家、ピアニスト、作曲家、そして大学講師と多彩な顔を持つ。この音楽家のピアノにまつわる壮大な物語で、16章からなるテーマ別に纏まっているものの、そのタイトルも8章「練金術師」や16章「温故知新」などおよそ読み手を意識しない書きぶりだ。読むのに結構、忍耐の要る本であったが、ところどころ太字で著名人のコラム話があり、人それぞれの音楽観があって面白かった。そんなコラムの中からあるピアニストの談を拾ってみた。
ある夜、わたしは彼の指揮でウィーン・フィルとチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏することになっていた。私は彼の部屋を訪ね、言った。「マエストロ、演奏が突然できなくなってしまうか、心配で心配で、どうしていいかわかりません」彼の答え以上の答えはなかった。「いいかい」と彼は言った。「今夜何があったとしても、コンサートが終われば、外でうまいディナーが待っている。僕らはパイロットじゃないんだからね。間違ったところで、みんな死にはしないよ」

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