小谷野敦「芥川賞の偏差値」を読んで

掲題の本は芥川賞の第1回から最新の2016年下期まで、全受賞作品164作を中心に批評していて、およそ芥川賞に関連した作品を網羅している。受賞作は「偏差値」が付けられているが、総じて点数の信ぴょう性はなく批評というよりか好みや感想そして愚痴を書き連ねた感が強い。それでも歴代の全作品がどんなもので、どんな候補作と競り合ったのか見るにつけ、楽しく読めた。「あとがき」で芥川賞をとる秘訣は「退屈であること」「ただし、いかにもうまいという風に書いて、かつ退屈であることが重要」と述べている。確かに受賞作は純文学などと称され、娯楽から最も縁遠い退屈な代物が多い。面白かったのは選考委員のその時々のコメントが書かれているのだが、受賞の根拠とはかけ離れ最終選考会の密室の中でどう決めたかは皆目分からないとしていることだ。どうも、多くの選考会では大もめで予想外な結果になったり、どうしても収拾が取れなかった時は受賞作はなし、となるのではと危惧される。権威ある賞もなんとなく胡散臭くなり、拍子抜けした感がした。さしずめ、候補作を読みあさって受賞作当てで一喜一憂するのはよそうかと思っている。

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