題記の林真理子のエッセイ集を読んだ。「週刊文春」に連載されてきたエッセイの中から割と最近のものを抜粋したもので、元の週刊誌のエッセイは史上最多連載回数を達成し、ギネス記録として申請したとのこと。1983年29歳で連載を開始し昭和から平成、令和へと長く続いた秘訣はもちろん本人努力の賜物だが、決して飽きることのない読者ニーズがあってのことだと思う。驚くばかりだ。実際の本の中身はミーハーぽいゴシップものが多いものの、時代を反映した話題のてんこ盛りは読むのに飽きない。具体的内容はそんなこともあったけ、と過去を振り返るばかりでなく、知られざる実体や裏側の世界が垣間見えて目に鱗だ。そして林真理子独特の持論が縦横無尽に展開され、軽妙なテンポで畳みかける様はさすが、文壇の重鎮たる貫禄を感じる。特に面白かったエッセイの一部を拾うと、
- 年をとるというのは、「怒りっぽくなる」「話が長くなる」「ひがみっぽくなる」 ことだとわかってきた。壊れたレコードのように何度も同じことを繰り返すようになると、余命は1年未満らしい。
年甲斐もなく題記の本を読んだ。筆者はバンド「SEKAI NO OWARI」のメンバーでピアノを担当するミュージシャンだ。そして文壇にもデビューした後、雑誌「文學界」でエッセイ連載したものを単行本化したものがこの本だ。内容は自身の半生を振り返って生い立ちや学業のこと、ピアノのこと、バンド結成後の活動など、自らの経験を日記風に描いている。ユニークなのは、各エッセイの日々の暮らしで著名な本の内容と似た部分を抜粋を交えてうまく関連付けていて、ある意味、読書感想文的なのだ。文体も洗練されていて、デビュー作が直木賞候補になったことからも非凡さが窺える。バリバリの関西人の父母が登場して大阪弁丸出しなのに、本人は当たり前のように標準語を喋り、標準語の世界に浸っている。自己顕示欲(?)からか、いかにも関西人らしさを言葉の端々に醸し出す人が多い中で、筆者は全く違うスタイルなのもユニークに思える。作風はあまり女性を感じさせず、純文学的な雰囲気があり、いずれのエッセイも面白く読めた。中でも村上春樹の小説に出てくるウィスキーの挿話でそのかっこよさに憧れ、実際に試飲してすっかり本人もウィスキー党になってしまうくだりは上手い描写に感心した。










先々月に選考のあった直木賞候補、6作品の中で5作品目を読んだ。残りの1作品(オルタネート)は1/4に至る前にどうにも読みあぐね、すでに途中放棄した。これで一通りの候補作に目を通したが、自分が選ぶとすると本作が直木賞に一番ふさわしいと思った。本作品は5つの独立した短編からなるが、どれも今の世相を背景にしたものの中に地球物理というか科学的な面白話が散りばめられていて、しっとりとしたストーリーの中にうまく調和して楽しめた。どの主人公も悩みを抱え、苦しみそしてあがきながらも人との交わりを通して、最後は爽やかな方向に向かってエンディングとなる構成で、何とも心地よい。著者の経歴は物理系の出身で随所にその面影を感じたが、巻末には凄まじい数の文献が参照されていて、伏線となる理系の語りが本物の中にもエキスが凝縮されており、5つのテーマが楽しく学べた。こんな読書の醍醐味が味わえたことに感謝したい。お勧めの1冊だ。

先日、リモートで行われた講演会で講師を務めた北尾トロ氏の代表作と思しき題記の本を読んだ。2004年の発刊で、60万部のベストセラーで一躍有名となり、その後の裁判傍聴ブームの契機となって、マンガ化、デレビドラマ化、映画化と話題を集めたようだ。本書は筆者が裁判の傍聴に2年間通い詰めた記録をルポ形式で雑誌投稿した連載物を加筆、書き下ろしを加えたものだ。裁判の堅苦しさは微塵もなく、ヤジ馬根性で多くのジャンルの裁判を面白おかしく描いている。対象のほとんどが軽犯罪で、自分のあから様なムラ気も織り交ぜて下品な書きぶりも目立つが、様々な人の人間模様が軽妙にそして切なく、もの悲しくもあって、なかなかの秀作だ。何より、読む人を飽きさせないのが、当時のベストセラーとブームを勝ち取ったのに違いない。これから、この裁判物シリーズを読み漁るか、自分の好みとしてはちょっと微妙だが..。
